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たかはし歯科
2025年8月16日
フェイスなしにはデザインできない
地域医療を担う開業医にとって、単冠補綴のようなシンプルな治療を行うこともありますが、審美補綴や全顎的補綴治療、矯正治療といった総合的な治療計画を必要とするケースも日常臨床で多く診察を行うことになります。
この時、診断用のワックスアップを行い、また矯正用の歯列セットアップを行うことで治療後の状態を患者や歯科医師・歯科技工士のコミュニケーションを円滑にすることができます。
ワックスアップや合診断は古くから合器上で行われてきましたが、単に患者の歯や歯列だけを見ていても本当の意味での「デザイン」はできません。
インサイザルエッジポジションやスマイルラインは、目や鼻、口唇、顎のラインといった顔全体との調和を踏まえて決定する必要があります。
従来のDSD(デジタルスマイルデザイン)は写真を使うことで患者顔貌情報と歯列の曝露状態を統合しようと試みてきました。
それでも一定の効果は得られますが、どうしても立体感までは表現できません。動画による情報も、会話をしている時の自然な口唇や表情の動きの記録には役立ちますが、参考程度にとどまります。
そこで役立つのがフェイススキャンです。SHINING3Dのシステムを組み合わせることで同社の最新口腔内スキャナーであるAoralscan Eliteによる高精度な歯列データと、MetiSmileで取得された顔貌データを容易に統合することが可能です。これにより歯科医師は患者帰宅後も三次元的にスマイルや合を検討でき、またチェアサイドに立ち会っていない歯科技工士であっても、より患者の自然なスマイルや表情、患者の希望に寄り添った治療計画を立てることが可能になります。
MetiSmileの特徴
SHINING 3DのMetiSmileは、歯科専用に設計されたフェイススキャナーです。誰が機器を扱っても自動で撮影を開始し明るさを整えてくれるため、短時間で規格的な顔貌データを取得できます。
また、同社のAoralscanシリーズで取得された歯列スキャンデータや、追加のCAD上のデザインとシームレスに統合できる点が大きな特長です。
このMetiSmileですが、臨床で使ってみると次のような利点があります。
• 短時間で規格性のあるデータが得られる
• 撮影中のわずかな動きを補正して滑らかな画像に仕上げてくれる
• 目や鼻といった基準点を自動認識し、デザイン作業に直結する
• 自然なスマイル、最大限のスマイル、閉口時など複数の表情を記録できる
こうして得られたフェイスデータを歯列と重ね合わせることで、患者さんへの説明や補綴デザインがよりスムーズに行えるようになります。
スキャン開始や調整は自動で行われ、口腔内スキャナーとのマッチングも自動で行われる。
またMetiSmileは大型・据え置きのフェイススキャナーと異なり、デスクトップで使用することもチェアサイドで使用することもできます。
特に筆者の日常臨床においては、介護を必要とするような患者や身体的制限により頭位を動かせない患者も来院します。そのような患者の全顎補綴や総義歯治療においては、機動性の高いMetiSmileの特性が存分に発揮できます。
MetiSmileは治療をスピードアップできる
フェイススキャンは先述した通り口腔内スキャンデータと統合し、「診査・診断」を正確にするだけでなく、治療そのものをスピードアップする効果もあります。
歯列スキャンと顔貌データをその場で統合し、即日シミュレーションを提示できるため、審美や矯正の希望で来院した患者は、その場で治療後のイメージを確認でき歯科医師と詳細の相談を行うことができます。
この手法について今までの診療を思い返してみましょう。従来法では写真や模型を技工所に送り、数日待ってセットアップやワックスアップを製作してもらい、返送の日数をさらに待ってから患者をチェアサイドに呼んで確認する必要がありました。
SHINING3DのMetiSmileを使えばそのプロセスを大幅に短縮できます。初診時に患者さんの不安が早い段階で解消されるため、治療方針の合意形成がスムーズになり、結果として治療全体の効率も向上します。また、審美や矯正の相談で来院した患者の多くは、歯科的な要求をうまく言語化できず「なんとなく前歯を綺麗にしたい」「前歯をもう少し内側へ入れられると良いな」という曖昧な希望を持っています。

ConsulOSであえて前歯を大きく動かしている様子。
その際に、実際の患者顔貌と歯列を統合し見せながら治療方針の説明を行うことで、患者の思う「本当の主訴」を早い段階で歯科医師・患者が共有しやすくなることもMetiSmileを使用するメリットであると言えるでしょう。
患者さんの来院回数を減らす「デジタル試適」
補綴治療では、往々にして最終補綴物を製作する前に患者の確認を行い、歯科医師と患者のイメージを共有しようと試みてきました。
このためにクラウンのワックスアップやモックアップを実際に装着して試適を行うのが一般的でした。しかしそのためには患者さんに複数回来院してもらう必要があり、またその形態や歯列に患者が同意しない場合は再度同じような試適を行うため、歯科医師・患者双方の時間的な負担が避けられませんでした。
そのような場面においてもMetiSmileを活用することで、顔貌スキャンと歯列スキャンを組み合わせた「デジタル上で試適」を患者の目の前で簡単に行うことができます。
患者は診療室でシミュレーションを確認できるだけでなく、自宅にデータを持ち帰り、家族と一緒に検討することも可能です。これはAoralscanシリーズの ConsulReport機能、MetiSmileのConsulOS, ConsulFace, またリリースが予定されているConsulDSDといったソフトを用いて患者と治療内容の相談を行った上、患者共有用のQRコードを発行することでチェアサイドでは別のソフトやサービスを使用することなく、どの院内スタッフが行ってもスムーズにデータ共有が簡単に・安全に行うことができます。
この「デジタル試適」によって来院回数を減らしつつ、歯科医師・患者が情報を共有し十分なインフォームドコンセントを得られるのは大きな利点です。
全顎補綴のための基準平面を知る
筆者が個人的に最も強力だと考えるのが、フェイススキャンと全顎的な介入が必要なケースの組み合わせです。
ここでMetiSmileを合再構成の基準に積極的に用いたケースを供覧します。
初診の顔貌と口腔内スキャンデータのマッチング
この患者は10年以上も写真のような合崩壊状態でなんとか食事をとっていたようで、残存歯による口腔内スキャンデータのみでは明確な基準平面を決定するのは困難だと考えられました。さらにこのケースは移行義歯として、上下総義歯に口腔内を移行することを考えました。そのため残存歯を抜歯か残根に変更したその日に、あらかじめ準備しておいた3Dプリントフルデンチャーをセットすることを検討したものの、その場合は残存歯があるままで平面を決定するための合床をセットすることすら困難であるように思えました。
初診の口腔内写真
そのため、このケースではSHINING3DのAoralscan EliteとMetiSmileを統合し、残存歯をマッチングポイントにして患者の初診来院を終えて帰宅後に、CAD 上で治療のための基準平面を顔貌を頼りに決定することとしました。
さらにAoralscan Eliteを用いて口唇や鼻根までを含めた「部分的なフェイススキャン」を取得し残存歯とマッチングしておき、これをフェイススキャンデータとのマッチング確認のために使用するテクニックを用いてデータの信頼性を担保しています。これは必須ではないですが、残存歯の状態が良くない場合にはより信頼性のあるマッチング結果を得られる場合もありラボサイドとしても設計の際にダブルチェックができるため安心して作業が可能になります。
口腔内スキャナーの情報をフェイススキャンに高精度にマッチングさせる様子。
次の写真は、患者の二度目の来院において残存歯を抜歯・残根化し、準備しておいたモノリシックでプリントされた3Dプリントトライインデンチャーを セットした様子です。
Accufabプリンターを用いて製作されたトライインデンチャーの装着の様子。
この二度目の来院は初診の翌日に予約をとったために3Dプリントデン チャーの作業時間が制限されていましたが、SHINING3DのAccufabシステムを用いてシームレスに上下総義歯が製作されました。筆者は各種CADソフトを用いてトライインデンチャーを製作していますが、デザインに不慣れな場合には SHINING3Dの提供するデザインサービスを活用することも考えても良いでしょう。

SHINING3Dの提供するCADデザインサービス
このトライインデンチャーを活用することで患者の顎位や合関係、審美をさらに精密に検討することができます。
従来ではこのようなケースにおいては全ての歯を抜歯して、義歯完成まで何週間も患者は歯が無いまま待機しないといけないこともありました。
そのことを考えるとデジタルデンティストリーの進化、特にフェイススキャナーの日常臨床への統合はとても大きな進歩であるように思えます。
このケースにおいてもトライインデンチャーをしばらく使用しさらに診断を進めたのちに、患者には院内で製作した3Dプリントフルデンチャーを最終補綴物として提供し、良い経過を辿っています。
同じくAccufabプリンターで製作された3Dプリントデンチャーを装着する様子。
スマイルから機能へ― MetiSmile MRの紹介
さらに注目したいのは、Jaw Motionモジュールを組み合わせた「MetiSmile MR」です。これは下顎の運動を記録し、フェイススキャンに重ね合わせて動的に可視化できる機能を持っています。
これにより、MetiSmileは単に審美的なスマイルラインを決めるだけでなく、合接触や顎関節の動きといった機能面まで統合した診断が可能になります。

MetiSmileMRではマーカーシールをマッチングポイントとして上下顎の動きを高精度に記録できる。
例えば前歯の補綴を設計する際にも、見た目の美しさだけでなく機能的な安定性や顎関節を考慮した機能面形態までを考慮したデザインを行えるようになります。先のケースにおいても、最終義歯を製作する際の水平的合採得には JawMotion機能を用いた計測を活用しています。
「スマイルから機能へ」――MetiSmile MRは、従来のDSDをさらに進化させ、デジタル補綴の新しい方向性を示しています。
まとめ
MetiSmileを用いたフェイススキャンは、これまでの写真ベースの診査では得られなかった「顔全体との調和」を簡単に取り入れることを可能にしました。
誰が扱っても簡単に短時間で撮影でき、体動補正や自動認識といった機能も備えているため、日常臨床にすぐに応用できます。
さらに、デジタル試適によって患者さんの来院回数を減らすことができ、MR機能を組み合わせれば審美と機能の両立も可能になります。
MetiSmileは、今後のデジタルスマイルデザインやデジタル補綴、日常臨床をステップアップさせるために欠かせないツールとなっていくでしょう。
この情報が先生方の臨床の一助になれば幸いです。

ソフトウェアのアップデートで進化を続けるMetiSmile。筆者のデジタルアバターを作成している様子。